冬の低山に行こうと思って調べると、必ず出てくるのが「滑り止めを持っていこう」というアドバイス。ところが売り場をのぞくと、チェーンスパイク、軽アイゼン、6本爪、12本爪……と種類がいくつもあって、どれを買えばいいのか迷ってしまいます。
この記事では、チェーンスパイクと軽アイゼンの違いを、爪の形・着け方・向いている道の3つから整理します。
そのうえで、高尾山や奥多摩、丹沢のような関東の冬の低山ならどっちを選ぶか、使うときの注意点まで、メーカーの取扱説明書や東京都・埼玉県などの公式情報をもとにまとめました。
先に結論:雪が浅い、凍っている所とそうでない所がまだらにある、急な斜面がない——こんな関東の冬の低山なら、着け外しが楽なチェーンスパイクが向いています。雪が深い、カチカチに凍っている、斜度がある場所が多いなら、爪の長い軽アイゼン(4本爪・6本爪)が向いています。どちらも本格的な雪山用ではないので、雪山には12本爪のアイゼンなどが必要です。
まず整理:滑り止めは大きく3種類
最初にややこしいのが言葉の使い方です。お店や記事によって「軽アイゼン」が指す範囲が違います。たとえばモンベルは、自社のチェーンスパイクを「冬の低山や夏の雪渓歩行に適した軽アイゼン」と紹介していて、取扱説明書では「簡易アイゼン」と呼んでいます。
この記事では、東京都の自然公園の案内にならって、次の3つに分けて説明します。
| 種類 | どんなもの | 向いている場面 |
|---|---|---|
| チェーンスパイク | 足裏全体にチェーンと短めの爪。ゴムのバンドで靴にかぶせる | 冬の低山、雪の浅い道、凍結した道 |
| 軽アイゼン(4本爪・6本爪) | 長めの爪が4本か6本。ベルトで足の甲やかかとに固定 | 雪が深い、カチカチに凍っている、斜度がある道 |
| 12本爪アイゼン | つま先まで爪のある本格的なアイゼン | 冬の縦走や雪山登山(初心者の低山向けではない) |
関東の低山で話題になるのは、ほとんどが上の2つ。東京都も「東京の自然公園の山では軽アイゼンかチェーンアイゼン(チェーンスパイク)を使用する方が多い」と案内しています。
12本爪は冬の縦走やアルパインクライミングまでを想定した道具で、初めての冬の低山で買うものではありません。
チェーンスパイクと軽アイゼンの違い
2つの違いを、東京都の比較とメーカーの説明をもとに並べるとこうなります。
| チェーンスパイク | 軽アイゼン(6本爪など) | |
|---|---|---|
| 爪 | 短い爪が足裏全体に並ぶ | 長い爪が土踏まずのあたりに4〜6本 |
| 着け方 | つま先からかかとにひっかけてかぶせる。着け外しが楽 | ベルトで足の甲やかかとに固定する |
| 向く道 | 雪が浅い、雪があったりなかったりする、急な斜面がない | 雪が深い、カチカチに凍っている、斜度がある |
| 歩きやすさ | 足裏全体で接地するので普通に歩きやすい | 爪が長く、雪の深い道や斜面で効く |
チェーンスパイク:着け外しが楽で、まだらな道に強い
チェーンスパイクのいちばんの良さは、着け外しが楽なことです。関東の冬の低山は、日なたは土が出ていて、日陰や北側の斜面だけ凍っている、ということがよくあります。
こういう道では、凍った区間の手前でさっと着けて、抜けたら外す、を繰り返すことになるので、手軽さが効いてきます。
山と溪谷オンラインの記事で、登山用品店・好日山荘のスタッフは、チェーンスパイクは「林道上に薄く氷が乗っているような状況では効果抜群」と話しています。一方で「積雪が多い場所では爪が効きづらくなります」とも。爪が短いぶん、深い雪には弱いということです。
軽アイゼン:爪が長く、深い雪や斜面で効く
軽アイゼンは爪が長いぶん、雪にしっかり刺さります。同じ記事でも「チェーンスパイクに比べて爪が長いため、斜度のある場所や雪が深いところで使うのに効果的」と説明されています。モンベルの6本爪「スノースパイク6」の取扱説明書では、爪の長さは23mmです。
ただし、軽アイゼンは土踏まずのあたりにしか爪がないので、つま先やかかとは滑ります。モンベルもスノースパイク6を「斜度の緩い冬の低山歩行用」とし、「急傾斜の雪山登山には使用しないでください」としています。軽アイゼンがあれば雪山に行ける、というわけではありません。
関東の冬の低山ならどっちを選ぶ?
高尾山や奥多摩、丹沢、秩父のような関東の低山は、冬でも雪がずっと積もっている山ばかりではありません。むしろ困るのは、雪がないように見えて道が凍っていることです。
埼玉県は秩父の冬の登山について、「落ち葉等に隠れて凍結した路面が見えない場合もあります」と注意しています。両神山では、緩やかな登山道でも転んでけがをする事故が起きているそうです。
神奈川県も丹沢について、冬の登山にはアイゼンなどの滑り止めを持っていき、積雪や凍結に備えるよう呼びかけています。
こうした山の状況を踏まえて、道の状態ごとに目安をまとめるとこうなります。
| 道の状態 | 向いている滑り止め |
|---|---|
| 霜が降りている、日陰だけ凍っている | チェーンスパイク |
| 雪が数cm、雪のある所とない所がまだら | チェーンスパイク |
| 雪が深い、踏み固められてカチカチに凍っている | 軽アイゼン(6本爪など) |
| 斜度のある雪の斜面が続く | 軽アイゼン。急斜面なら本格的なアイゼンと経験が必要 |
初めて冬の低山に行く人が最初の1つを買うなら、チェーンスパイクが無難です。関東の低山で多い「まだらに凍った道」に合っていて、着け外しも楽だからです。大雪のあとや、標高の高い所まで行くときは、事前に雪の状態を確かめて、軽アイゼンが必要かどうかを判断しましょう。
雪の状態は事前に確認:東京都は、道具を選び間違えると事故につながる可能性があるとして、ビジターセンターに問い合わせるなどして事前に雪の状態を確認するよう呼びかけています。高尾山なら高尾ビジターセンター(042-664-7872)、奥多摩なら奥多摩ビジターセンター(0428-83-2037)が問い合わせ先です。
冬の低山選びや服装、日没の早さなど、冬山歩き全体の注意点は冬の低山ハイキング 初心者ガイドにまとめています。
代表的な製品のスペック
定番の製品を、公式の表記で並べました。重さは左右1組(ペア)の値です。
| 製品 | 爪・重さ | 税込価格 |
|---|---|---|
| モンベル チェーンスパイク | 全面スパイク仕様。242g(S)〜316g(XL) | 5,800円 |
| モンベル コンパクトスノースパイク | 4本爪(16mm)。210g | 2,200円 |
| モンベル スノースパイク6 | 6本爪(23mm)。517g | 6,400円 |
| カトゥーラ マイクロスパイク | 片足12本(10.4mm)。312g(S)〜372g(L) | 販売店によって異なる |
サイズは靴のサイズで選びます。モンベルのチェーンスパイクはS(20.5〜23.5cm)からXL(28.0〜31.0cm)までの4サイズ。
ただし、スノーブーツやスキーブーツなど靴の形によっては、対応サイズ内でも着けられないことがあるとモンベルは注意しています。買う前に、山で履く靴に合うかを確かめるのが確実です。
使うときの注意点
滑り止めは、着けていれば安心という道具ではありません。モンベルの取扱説明書に書かれている注意を中心にまとめました。
着ける前に靴底の雪や土を落とす
チェーンスパイクは、靴底の雪や土を落としてから着けます。つま先側(ガイドがある側)につま先を入れて、かかとにかぶせ、タブを引いてチェーンを張るのが基本の手順です。表裏を逆にしたり、チェーンがたるんだまま着けたりするのは「大変危険」と書かれています。
たるみや、爪の引っかけで転ばないように
チェーンがたるんだまま歩くと、木の枝や根に引っかかって転ぶおそれがあります。また、慣れないうちは爪を引っかけて転びやすくなるとも書かれています。
モンベルは、山で使う前に十分に歩く練習をして、説明書を見なくても手早く着け外しできるよう練習しておくよう勧めています。
雪のないところでは外す
岩場や舗装路、土の道で使うと、爪が折れ曲がったり、バンドが傷ついたりしやすくなります。東京都の自然公園の利用ルールでも、雪面以外でのアイゼンの使用は控えるよう案内されています。凍った区間を抜けたら、こまめに外しましょう。
爪についた雪の固まりは取り除く
湿った雪の上を歩くと、靴底と爪のあいだに雪が団子のようにくっついて、爪が効かなくなることがあります。モンベルは、アイゼンの底についた雪や雪の固まりは常に取り除くよう注意しています。スノースパイク6には、雪がくっつきにくくなるプレートが付いています。
軽アイゼンは靴との相性を確認
ベルトで固定する軽アイゼンは、靴の形との相性があります。モンベルはスノースパイク6について、底が平らな靴は合わないとし、土踏まずがへこんでいて、かかとが出っ張っている靴かを確認するよう書いています。
幅の調整は付属の六角レンチで、必ず山に行く前に済ませておきましょう。ベルトは歩いているうちにゆるんでくることもあるので、休憩のたびに確認を。
冬の低山で転ばないために
警察庁のまとめでは、2025年(令和7年)の全国の山岳遭難は3,122件。遭難の原因は道迷いが30.9%でいちばん多く、転倒が19.2%、滑落が17.3%と続きます。
高尾山の遭難者は106人で、例年と比べて増えています。低山でも、転んでけがをする事故は珍しくありません。
警察庁は、滑落や転落を防ぐために、アイゼンやストックなどの装備を登山の状況に合わせて使いこなすよう呼びかけています。
登山計画書(登山届)の提出も勧めていて、登山口のポストのほか、インターネットや登山地図アプリからも出せます。アプリの使い方は登山地図アプリの選び方・使い方で紹介しています。
よくある質問
チェーンスパイクと軽アイゼン、最初に買うならどっち?
関東の冬の低山に行くなら、チェーンスパイクがおすすめです。雪が浅く、凍った区間とそうでない区間がまだらにある道に向いていて、着け外しも楽です。雪の深い山や、斜度のある雪道を歩く予定があるなら、軽アイゼンも検討しましょう。
冬の高尾山にチェーンスパイクは必要?
東京都は、高尾山を含む都内の自然公園について、登山道が凍結していることがあるので冬の間はアイゼンなどの滑り止めを持っていくよう呼びかけています。
雪がなくても日陰が凍っていることがあるので、持っていくと安心です。雪の状態は高尾ビジターセンターに問い合わせると確認できます。
スニーカーやトレランシューズにも着けられる?
モンベルのチェーンスパイクは、底の柔らかいランニングシューズから固い靴まで幅広く対応する、と取扱説明書に書かれています。
ただ、冬の山を歩くなら、滑りにくく防水性のある登山靴のほうが安心です。スニーカーで山に行っていいかの線引きはスニーカーで登山はダメ?にまとめています。
チェーンスパイクがあれば雪山に行ける?
行けません。モンベルはチェーンスパイクについて「本格的な雪山登山には使用しないでください」としています。軽アイゼンのスノースパイク6も「急傾斜の雪山登山には使用しないでください」とされています。雪山には、それに合った道具と経験が必要です。
チェーンスパイクを着けたまま舗装路を歩いてもいい?
おすすめしません。雪や氷のない所で使うと、爪が折れ曲がったり、バンドが傷んだりしやすくなるとモンベルは注意しています。舗装路や岩場に出たら外しましょう。
まとめ:冬の関東の低山は、まずチェーンスパイク
チェーンスパイクと軽アイゼンの違いは、爪の長さと着け方、そして向いている道です。雪が浅くまだらに凍った道ならチェーンスパイク、雪が深い・カチカチに凍っている・斜度がある道なら軽アイゼン。
関東の冬の低山で最初に持つなら、着け外しの楽なチェーンスパイクが使いやすいはずです。
この記事の要点:①チェーンスパイクは短い爪が足裏全体、軽アイゼンは長い爪が4〜6本②雪が浅い・まだらに凍った道はチェーンスパイク、深い雪・硬い氷・斜度のある道は軽アイゼン③どちらも本格的な雪山用ではない④靴に合うサイズを選び、山に行く前に着け外しを練習⑤雪のない所では外す。雪の状態はビジターセンターで事前に確認。
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